AIエージェントAI動向

AIエージェントをうまく使うには? ー コーディングAIから考える

はじめに

なぜコーディングではAIがうまく働く(ように見える)のか

AIは、いろいろな分野で使われ始めています。
その中でも、特にうまくいっているのがコーディング分野です。
理由としてよく言われるのは、「学習データが多いから」です。
プログラミングの世界には、公開されているコードや解説記事が大量にあります。AIが学ぶデータが多いのは大きな強みです。

でも、それだけでは説明しきれないと思っています。
私が大学生の頃を思い出すと、知識が浅くても「とりあえず動くもの」は作れました。品質が高かったかと言われると、非常に低かったと記憶しています。

動くことと、良いことは別です。
今のAIエージェントはそれなりに動く。でも、ソフトウェアの品質はまだ微妙。(※作り手によって品質は変わります。ハーネスをうまく整備すると良い感じになるとは思います。)
では、何がその差を生んでいるのでしょうか。
そして、その仕組みはコーディング以外にも応用できるのでしょうか。

なお、「AIが得意なのは答え合わせができる分野だ」という論点自体は、私の発見ではないです。AIの世界では検証可能な報酬(RLVR:Reinforcement Learning from Verifiable Rewards)として知られ、実際に最新のAIを賢くする学習手法の中心になっています。コードや数学のように機械が自動採点できる分野でこそAIは伸びる、という指摘は、すでに多くの書き手が論じています。「答え合わせができる/できない」を白黒で語るのではなく、3つの条件に分解して度合いで捉え直し、条件が欠けたときに各分野でどのような工夫がされているか

大事なのは「確かめながら直せること」

コーディングの強みは、単にデータが多いことではありません。
正しいかどうかをすぐに確かめられることです。

  • コンパイルが通るか
  • テストが成功するか
  • CIが落ちないか
  • エラーがどこで起きているか

こうしたことは、即座にそして、機械的に分かります。

why_ai_agents_fit_for_coding

この「作る → 確かめる → 直す」のサイクルを高速に回せることがコーディング分野においてAIがうまくいっている理由であると考えています。

文章を書く、事業戦略を考える、研究テーマを考えるといった仕事では、良し悪しの判断がもっと難しいです。フィードバックも遅くなりがちです。
しかも、「どこが悪いのか」を細かく切り分けるのも簡単ではありません。

コーディングがAIと相性がいいのは、この確認と修正のサイクルが最初から整っているからです。

AIが効きやすいかを見る3つのポイント

では、AIエージェントがある分野でうまく働くかどうかは、何で決まるのでしょうか。

私は、次の3つで考えると分かりやすいと思っています。

1つ目は、客観的に判断できるか
人の好みや感覚ではなく、正しい・間違っているをある程度はっきり言えるか。

2つ目は、すぐに結果が返ってくるか
試した結果が数秒で分かるのか、数日かかるのか、数年かかるのか。

3つ目は、どこで失敗したか分かるか
全体がなんとなくダメ、ではなく、問題のある部分を切り分けられるか。

コーディングは、この3つがかなりそろっています。

テストで正誤が分かる。
結果がすぐ返ってくる。
失敗した場所も比較的分かりやすい。

だから、AIが改善を重ねやすいのです。

逆に、他の分野ではこの3つのうち何かが足りないことが多い。
その場合、足りない部分をどう補うかが重要になります。

他の分野では、足りないものをどう補っているか

すでにAIエージェントをうまく使い始めている分野を見ると、共通点があります。それは、本来は確かめにくいものを、別の方法で確かめられるようにしていることです。

たとえば創薬では、本当に薬が効くかどうかを知るには、長い時間がかかります。最終的には臨床試験が必要だからです。

でも、それを待っていたら、AIに何度も試行錯誤させることはできません。

そこで、まずはコンピュータ上で「この分子は有望そうか」を見ます。
たとえば、分子がターゲットに結合しそうかを予測するスコアを使います。

もちろん、それは本当の正解ではありません。
でも、候補を絞るための「仮のものさし」にはなります。

つまり、遅すぎる本番の検証の前に、早く返ってくるチェックポイントを作っているわけです。

自動実験ラボも似ています。
仮説を立て、実験し、結果を読み、次の実験を決める。
この流れをロボットやAIで自動化すると、人間だけで回すよりずっと速く試行錯誤できます。

リサーチ系のAIエージェントは、さらに難しい領域です。
研究では、そもそも何が正しいかを簡単には判断できません。
だから最近は、AIの出力を別のAIにチェックさせたり、誤りを見つけさせたりする試みもあります。

ただし、これはまだかなり難しいです。
チェックする側にも高度な判断力が必要だからです。

一番難しいのは「客観的に判断すること」

整理すると、こうなります。
結果が返ってくるのが遅いなら、途中に仮のものさしを置く。
作業が重いなら、自動化して試行錯誤の回数を増やす。
失敗の原因が分かりにくいなら、問題を小さく分けて確認できるようにする。

これらは難しいですが、やるべき方向は見えています。
一番難しいのは、何をもって正しいとするかです。

信頼できる判断基準を作るのは簡単ではありません。
コーディングがAIと相性がいいのは、この判断基準がかなり自然に存在しているからです。

テストが通るか。
エラーが出るか。
仕様を満たしているか。

もちろん、それだけで良いコードかどうかがすべて分かるわけではありません。それでも、かなり強い確認手段があります。

多くの分野では、ここがまだ整っていません。
だから、AIエージェントを本当に活かせるかどうかは、「良し悪しをどう確かめるか」にかかっていると思います。

ただし、確認の仕組みは万能ではない

注意も必要です。
仮のものさしは、本当の正解ではありません。

たとえば創薬で、コンピュータ上のスコアが高くても、実際には効かない薬はあります。
AIは与えられた指標を一生懸命よくしようとします。
その結果、「本当に良いものを作る」のではなく、「点数だけを取りにいく」ことがあります。

これはコーディングでも同じです。
テストが通っていても、設計が悪いコードはあります。
あとから読みにくいコードもあります。
本当は作るべきでない機能を、きれいに作ってしまうこともあります。

つまり、確認の仕組みは大事ですが、それだけですべてが解決するわけではありません。

「そもそも何を作るべきか」
「この設計で本当にいいのか」
「長期的に見て扱いやすいか」

こうした判断は、まだ人間の役割が大きいと思います。

AIを使う側の仕事は、良い確認の仕組みを作ること

ここまで考えると、AIを使う側の仕事も見えてきます。
それは、ただ「もっと賢いAIが出てくるのを待つこと」ではありません。
自分の分野で、AIが試行錯誤できる環境を作ることです。

つまり、

  • 何を良い結果とするのかを決める
  • できるだけ早くフィードバックが返るようにする
  • 失敗した場所が分かるようにする
  • 大きな問題を、小さく確認できる形に分ける

こうした仕組みを作ることが重要になります。

次にAIが大きく伸びる分野は、単に賢いモデルが入ってきた分野ではないと思います。良い確認の仕組みが作られた分野です。

コーディングが先に進んだのは、「作る → 確かめる → 直す」のサイクルが、最初からそろっていたからです。

だとすれば、他の分野でAIエージェントをうまく使うために必要なのは、その分野なりの確認サイクルを作ることです。

AIに何を任せるかだけでなく、
AIの出力をどう確かめ、どう直させるか。

これを設計することが、これからAIを使う側に求められる仕事なのだと思います。

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